こんにちは!獣医師の山浦です。
今日は猫ちゃんの病気、猫伝染性腹膜炎(FIP)についてお話しします。
猫伝染性腹膜炎(FIP)とは?
原因:FIPウイルス(猫コロナウイルスが変異したもの)
特徴:1歳未満の比較的若い猫や、 8歳以上の高齢猫 に多く発生し、 非常に致死率が高い (発症するとほぼ100%死に至る)病気です。猫コロナウイルスとは違い、 猫から猫への感染はほぼないと考えられています。
予防:確実な予防策はないのが現状です。
変異前の猫コロナウイルスとは
親猫が感染していたり、多頭飼い等で同居猫がいる場合には、感染している猫と毛づくろいし合ったりすると、感染する可能性があります。
猫に対してほとんど病原性を示さず、腸管に感染するウイルスで、
感染により、 軽度な下痢などを示すことがありますが、無症状なことも多い です。
FIPウイルスにいつ変異する?
詳細は不明ですが、免疫を下げるFIVやFeLVなどのウイルス感染や、生活上でのストレスが強く関与していると考えられます。
※FIPで亡くなってしまうケースの多くは治療開始時に既に進行期となってしまっており、進行が早いケースでは発症から1週間程度で亡くなってしまうこともあるため 救命には適切な早期治療が不可欠です。
猫伝染性腹膜炎(FIP)の症状について
初期症状は?急死もありえる?
猫伝染性腹膜炎(FIP)にはいくつかの種類があり、種類によって症状が異なります。
初期兆候は、発熱、倦怠感、食欲の低下などが一般的です。数日または数週間(場合によっては数か月)後に別の兆候が現れます。 発見から10日以内に急死してしまうケースも存在します。
<初期症状>
どのタイプにも共通して以下のような症状があるため、気になった場合にはすぐに動物病院へ行くことをお勧めいたします。
▶︎ 発熱、食欲低下、元気がない、嘔吐、下痢、発育不良、体重減少、歩き方の異常など
その後FIPの種類によって、深刻化する症状が分かれていきます。
猫伝染性腹膜炎の種類は?
3つの種類(ドライ、ウェット、ドライ・ウェットの混合タイプ)があります。
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ウェット (滲出型)
FIPの多くはこちらのタイプに分類されます。
おなかや胸に水が溜まり(腹水や胸水)、腹部が膨らんだり、腹水・胸水が胸を圧迫して肺が膨らみづらくなることで呼吸困難などの症状を引き起こします。
嘔吐や下痢などの消化器症状が出ることがあります。
皮膚や白目が黄色くなることがあります。(黄疸)↑腹水が溜まった猫ちゃん
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ドライ (非滲出型)
様々な臓器に肉芽腫性炎という小さな しこりのようなものが発生する特殊な炎症が起きます。
眼に発生すると、ぶどう膜炎(目が濁る、充血する)などの症状が出る場合があります。
脳に発生すると、異常な行動や、麻痺、不安定な歩行、痙攣などの 神経症状が現れます。
腎臓や肝臓、腸などに発生すると、黄疸(目、粘膜、皮膚の黄色化)や下痢など発生個所に該当する異常が現れます。 -
混合タイプ
ウェットタイプ、ドライタイプの特徴的な症状が同時に発生してします。
猫伝染性腹膜炎(FIP)の診断について
FIPの診断は、上記のような症状が現れた子に対して、血液検査、レントゲン検査、超音波検査などを行い疑いを強めます。胸水、腹水やしこりの有無を判断するのにレントゲン検査、超音波検査は有用です。
しかし、上記のような院内でできる検査のみで確定診断をつけることは困難で、最終的な診断には外部の検査センターに腹水や胸水、肉芽腫(炎症で臓器にできるしこり)から取れた細胞の一部をPCR検査に提出し、FIPウイルスを検出することが必要となります。
経過を追いながら再確認していくことが大切です。また、発症から10日程で急死してしまうこともあるため、 全ての検査の結果が出る前に、総合的にFIPと仮診断をつけて治療を開始する場合があります。
※その他にも目や神経にしこりや異常ができる場合もあるので、必要な場合CTやMRI検査などより詳しい画像検査をお勧めする場合があります。
↑ FIPに特徴的な黄金色の腹水・胸水
猫伝染性腹膜炎(FIP)の治療について
かつてはFIPに対する治療は対症療法やインターフェロン療法が主体でしたが、残念ながらほとんどの場合で予後は極めて不良であり致死的でした。
しかし、この数年で100%の致死率だった病気、何匹もの猫ちゃんが、飼い主様が、苦しめられてきた病気が、80%という高確率で治る、待望の抗ウイルス薬「GS-441524」が開発されました。 国際猫医学会 ISFMにおいて推奨されている治療プロトコールがあります。
現在は、イギリスやオーストラリアにある動物用調剤会社 BOVA社にて猫用に調剤された レムデシビル(注射薬)や経口GS-441524錠(猫用に調剤されたツナ味の錠剤)が規制当局の許可を受けた正規の動物用医薬品として販売され、レムデシビルでの導入治療後にGS-441524錠を用いた計84日間のプロトコールなどが確立し、国際猫医学会 ISFMにおいてもこのプロトコールが紹介されています。
当院では、国際猫医学会 ISFMのプロトコールを参考にした治療を行います。
お気軽にご相談ください!
※他院にすでに受診されており、当院での治療を希望される場合かかりつけ医の紹介状と検査データをご持参ください。薬のみの処方はできません。
※FIPと他院で診断されている場合でも、必要と判断される場合当院でも検査、診断させていただくことがございます。