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当院でのFIP(猫伝染性腹膜炎)の治療の流れ

投稿日:2024年11月30日 更新日:

FIP(猫伝染性腹膜炎)の治療の流れや費用に関するお問い合わせを多く頂いております。治療について詳細を示しますので、参考にして頂ければ幸いです。

当院では国際猫医学会(ISFM)のプロトコールに基づいた治療をしております。

治療薬の種類

当院で扱う治療薬にはレムデシビル(注射薬)、GS-441524(錠剤)、モヌルピラビル(錠剤)があります。

レムデシビル(注射薬)

ISFMのプロトコールに記載されているFIPの治療薬のうち、唯一の注射薬です

治療の導入時や、重篤な神経症状がある時、錠剤が飲めない子に用います。

副作用として、注射時の痛み、不快感や、抑うつ、吐き気、肝酵素上昇が報告されています。

GS-441524(錠剤)

ISFMのプロトコールに記載されているFIPの治療薬です。

食べやすいようにツナフレーバーになっています。空腹時に飲ませてください。

副作用として、嘔吐・下痢、肝酵素上昇が報告されています。

モヌルピラビル(錠剤)

ISFMのプロトコールにFIPの治療薬として記載されている訳ではありませんが、FIPに一定の効果を示す事がわかっており、より安価に購入できます。

モヌルピラビル(錠剤)は湿気に弱い、量の調節が難しい、水に溶けにくく投薬が難しい等の特徴があります。

耳折れ、脱毛、皮膚が壊死するという副作用の報告があり、安全性が不明で、治療のプロトコールが確立されていません。

しかし、GS-441524(錠剤)は高額であることから、当院では治療の選択肢の一つとして考えています。

 

治療を始める前に

FIP(猫伝染性腹膜炎)の治療を成功させる為に大切なことは、1日でも早く治療を始めてあげる事です。
FIPは全身の炎症を引き起こす病気であり、悪化が止められず治療時に亡くなってしまう子の多くが、治療開始後数日だからです。

 

治療の流れ

治療経過を見ながら判断しますが、原則、84日間かけて治療を行います。

軽症の場合

症状が出ていない/水や食事が取れている場合

パターン①

❶治療開始7〜14日までレムデシビル(注射薬)を皮下注射(1日1回)します。皮下注射は注射部位に痛みが生じる事が比較的多くみられます。

❷治療開始8〜15日以降GS-441524(錠剤)の内服(原則1日1回)をします。

パターン②

注射が難しい場合、費用面で難しい場合は、治療を内服のみで行います。

 

重症の場合

食欲不振、脱水など、状態が良くなく、入院が必要となる場合

❶3〜4日間入院してもらい、点滴でレムデシビル(注射薬)を投与します。

❷状態が改善されたら、通院治療に切り替えます。治療開始7〜14日までレムデシビル(注射薬)を皮下注射(1日1回)します。

❸治療開始8〜15日以降は、GS-441524(錠剤)の内服(原則1日1回)をします。

 

治療経過について

期待される治療薬の効果

治療開始後数日(2〜5日)以内に症状(発熱、食欲、元気)の改善が見られます。

注射薬を使った場合は、早い段階で炎症マーカー(SAA)の低下が認められます。

治療開始後2週間程で貯留液(腹水や胸水)の消失、もしくは大幅な減少が認められます。

4週間以内に貯留液(腹水や胸水)の消失、眼や神経症状の改善が認められます。(※神経症状については後遺症として残る場合があります)

④4週間以降、再発や悪化はなく、84日まで経過します。

 

期待する効果が見られない場合

薬の増量を検討します。

具体的には、

炎症マーカー(SAA)が低下しない場合や、症状の改善が認められない場合

貯留液が2週間後に減少しない場合や4週間後にも明らかに残っている場合などです。

 

治療中の注意点

FIP(猫伝染性腹膜炎)は全身に炎症を引き起こすなどの影響を及ぼします。

そのため、SIRS(全身の炎症)やIMHA(免疫異常による貧血)などの重度の併発疾患が起こる可能性があります。

また、原因ははっきりとわかっていませんが、治療開始日に貯留液や神経症状の悪化が起こったという報告があります。

上記のような炎症や、免疫異常を抑える為にステロイド剤の併用を行います。

併発疾患がなく、抗ウイルス治療に反応を示したら、速やかにステロイドを減少・休薬します。

 

経過観察の行い方(当院の場合)

治療開始から4週間目まで

原則、1週間ごとに血液検査やエコー検査など(必要であれば別途検査も)を行います。血液検査では、炎症マーカー(SAA)や貧血の度合い等を確認します。

4週目以降

原則2週間ごとに定期的な検査を行いますが、治療経過に合わせて頻度を変えます。

再発もなく、問題なく過ごせれば84日間の投薬で治療は終了となります。

 

再発について

・多くの報告例で10〜20%程度とされています。

どんなに注意して正確に治療しても再発する場合があります。

再発する原因としては、潜在的に眼や神経にウィルスが存在する場合や猫自身の薬剤耐性がある場合と言われています。

 

当院としての願い

FIPは治す事が、闘うことが出来る病気になっています。しかし、当院でもやはり命を落としてしまう子がいるのも事実です。その多くは治療を開始するのが遅れてしまい、急速な悪化に対応が出来なくなってしまった結果です。

飼い主様にお願いしたい事は、かかりつけの病院様などでFIPの疑いがあると言われた時に、1日でも早くFIPの治療を開始するという事が何よりも大切だという事を知っていただきたいのです。

FIPの診断の為に、早急に状況証拠を積み重ね、治療に入る事、かつ正しい治療法の選択肢を知っていただきたいのです。

治療費やどの様な経過を辿るのか、副作用は、など様々な不安があると思います。

1人でも多くの命を守るため、飼い主様の不安を減らすため、今回、具体的な内容を書かせていただきました。

当院ではFIP相談専用のLINEも設けています。勿論、お電話でのご相談も可能です。

当院がFIPという病気に対して少しでもお力になり、飼い主様の不安を減らせればと思っています。

次回は当院での治療例と、費用についてお伝えします。

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